浦和地方裁判所 昭和57年(ワ)991号 判決
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【判旨】
1 <証拠>を総合すると、角丸の本件土地の取得及び造成工事費用として訴外商工組合中央金庫が金一億四〇〇〇万円を原告を窓口として貸付けることとなり、商工組合中央金庫が原告に対して右金員を貸付け、右金員を昭和五五年一二月二五日から昭和五六年五月三〇日までの間数回にわたり原告が角丸に対して貸付けたこと、角丸は、右借入金の担保として、同社が取得した本件土地につき、商工組合中央金庫に対して抵当権(物上保証)を設定し(浦和地方法務局志木出張所昭和五五年一二月二五日受付第六二三四〇号で登記済)、更に、原告に対し、昭和五六年二月二七日売買(条件農地法第五条第一項第三号の届出受理)を原因として同法務局同出張所昭和五六年六月一二日受付第二七七九六号をもつて条件付所有権移転仮登記を経由したこと(本件土地が角丸の所有であり、原告が右所有権移転仮登記を経由していることは当事者間に争いがない)、しかして、右所有権移転仮登記は、貸金債権の担保を目的とするものであり、仮登記担保の実質を有するものであること、以上の事実が認められる。
2 本件土地につき、被告サンエースポーツ施設と被告田口を権利者とする本件先取特権保存仮登記が経由されていること、右先取特権の目的となる債権は被告らが角丸から請負つた本件土地の造成工事費用であること、そして、右先取特権保存仮登記は、右工事着手後になされたものであること(被告田口の自認するところによれば、右工事に着手したのは昭和五六年五月二日であり、仮登記をしたころには、六割方完成していた)、以上の事実は当事者間に争いがない。
ところで、不動産工事の先取特権は、工事の始まる前にその費用の予算額を登記することが効力要件と定められている(民法三三八条)から、被告らの先取特権は無効であり、本件先取特権保存仮登記は抹消を免れない。
被告田口は、不動産工事の先取特権についても登記は第三者に対する対抗要件にすぎず、本件先取特権は有効であると主張するけれども、不動産工事の先取特権は、一般債権者のみならず先順位抵当権者にも優先するものであつて―先取特権の性質上からくるものではあるが、登記の面からすれば単なる対抗要件以上のものとなる―取引関係に入る者にとつて与える影響は大である、そこで、法は早期に債権額の上限を確定させるため、工事着手前に予算額を登記させることとし、かような登記を経由したものについてのみ前記のような強い効力を認めるものとしたと解されるのであつて、被告主張のように対抗要件と解する場合には、登記か工事着手の前後であるか否かにより先順位抵当権者に優先できるものと後順位者に対してのみ優先できるものとの二種の先取特権を認める結果になつて公示機能を十分に果たせない結果を招来する等の不都合が生じるから、被告田口の主張は採用できない。
三以上の事実によれば、原告は角丸に対し本件土地につき仮登記担保権の実行として本登記手続請求権を有し、これを保全するための本件土地についての被告らの無効な先取特権保存仮登記の抹消登記手続請求権を代位行使することが許されるものと一応考えられる。しなしながら、<証拠>によれば、本訴提起後の昭和五七年一〇月ころ、先順位抵当権者である訴外商工組合中央金庫により抵当権実行のための競売が申立てられ、競売開始決定がなされていることが認められるところ、先順位者による競売手続が開始された場合には、右申立が取下げられる等の事態がない以上、仮登記担保権者としてはその実行をすることができず配当に加入する以外に途はないものと考えられるので、現状において、原告は、角丸に対して本件土地の本登記手続請求権を有しないから、これを保全するため本件先取特権保存仮登記の抹消登記手続を求めることはできない。
しかしながら、原告は、角丸に対して前記貸金債権を有しているところ、角丸が昭和五六年一一月不渡を出し、銀行取引を停止され倒産状態にあることは争いがなく、弁論の全趣旨によれば、角丸には、抵当権等の目的となつておらず、一般債権者の債権の担保となるような財産は、存しないものと認められるから、原告は、角丸の財産を保全するため、同社が有する権利を代位行使することができるものと認められる。そして、無効な被告らの先取特権保存仮登記を抹消することが角丸の財産を保全することとなるのはいうまでもないから、原告の貸金債権に基づく本件代位請求は理由がある。
被告田口は、被告らの先取特権の有無にかかわらず、本件土地の価値は、第一順位の抵当権者の被担保債権額に満たないから、原告に債権者代位を許す利益はないと主張するけれども、本件土地の価値が明らかに右抵当権の被担保債権額に満たないと認めるに足る証拠はないうえ、前記1設定のとおり、第一順位の抵当権の被担保債権は実質において原告の角丸に対する貸金債権と同一であり、抵当権者が回収した金員は、原告の角丸に対する貸金の回収に相当するという関係にあるから、本件代位権の行使は原告の角丸に対する貸金債権の保全に有効有益であり、これを不当とすることはできない。
(野田武明)